大牟田簡易裁判所 事件番号不詳 判決
主文
被告人は無罪。
理由
本件公訴事実は「被告人はし尿運搬船第三栄福丸の甲板長であるが昭和四一年四月一四日午後四時一七分頃より同二七分頃までの間港内である大牟田市三池港北防砂堤燈台より北々西約一〇〇〇メートルから西南西約一〇〇〇メートルを直線で結んだ三池港内の水面において右船に積み込んでいたし尿を同船のあかと共に約三トン航行中の同船より捨てたものである。」というにあり、検察官提出の証拠により右公訴事実を認定することができるけれども、右に認定した被告人の行為が起訴状に罰条として記載される港則法第二四条第一項の規定に違反するものと認めることはできない。すなわち右条項は「何人も、港内又は港の境界外一万メートル以内の水面においては、みだりに、バラスト、廃油、石炭から、ごみその他これに類する廃物を捨ててはならない。」と規定するが、「し尿」については別段明示することなく、そして「し尿」と「ごみその他これに類する廃物」とは語義、概念がかけ離れているし、右条項が水路の保全を目的として制定されたものであることは内容自体から明らかであつて、同条項にいう「ごみその他これに類する廃物」とは水面又は水中に浮遊して推進器にからみついたり海水取入パイプをつまらせたりして船舶交通の安全に影響を与えるような物、沈没して水深を減ずるような物、引火の危険性のある物等を意味するものと解せられるところ、「し尿」は公衆衛生上清掃法等による規制の対象とされることはあつても直接水路の保全に支障を与えるものとは認め難いので、「し尿」を以て同条項にいう「ごみその他これに類する廃物」とすることは到底できない(此の点に関する証人樺島敬の証言は採用できない。)。
結局、被告人がし尿を第三栄福丸のあかと共に海水面に捨てた行為は罪とならないので、刑事訴訟法第三三六条前段の規定により被告人に対し無罪を言い渡す。
以上の理由により主文のとおり判決する。